Greeting
JAREFE会長
石島博(いしじま ひろし)
日本不動産金融工学学会(JAREFE)、通称ジャレフは、2000年に設立されてから約四半世紀にわたり、不動産ファイナンスについて産学官が集い、様々な学問的背景、ディシプリン、アプローチを持ち寄り、自由闊達な議論や研究を行う学会として活動をおこなってまいりました。
2000年の設立当初、不動産の証券化や、不動産とファイナンスとの急速な融合が大きな論点となっていました。翌2001年にはJ-REIT(日本版不動産投資信託)が創設された契機でもありました。当時の不動産業界にとって、証券化やファイナンスは黒船であったと、先達より仄聞しております。すなわち、それまでの不動産産業の常識であった「不動産1.0」からみれば、ファイナンスや金融工学の理論や、コンピューター・シミュレーションを駆使する技法は、現代の言葉で言えば、破壊的(disruptive)であったと想像されます。そうした、不動産産業への証券化やファイナンス・金融工学の導入である「不動産2.0」のステージにおいて、ジャレフは研究と教育の両面で貢献してまいりました。ジャレフの立ち上げから今日に至るまで、多大なるご尽力を賜りました刈屋武昭先生、瀨古美喜先生、前川俊一先生、川口有一郎先生をはじめとする諸先生方に改めて感謝を申し上げたいと存じます。
さて、2銘柄・時価総額0.25兆円で始まったJ-REITも、2007年5月には41銘柄・時価総額6.8兆円に成長しました。その後、2007年から2008 年にかけて、不動産市場の不調が金融市場に甚大な影響を与える世界金融危機(GFC)が起こり、世界はグレート・リセッションを経験しました。しかし、2012年12月以降、アベノミクスや金融の異次元緩和により不動産市場も復調し、COVID-19のパンデミックによる経済停滞が2020年にあったものの、2021年7月にはJ-REIT市場の時価総額は17.6兆円に到達しました。
このように、2007年以降の金融市場や不動産市場が不況と好況を繰り返す過程において、実体経済では格差は広がり、私たちの社会や価値観は大きく変容しています。また、AI技術やブロックチェーン技術の飛躍的な向上と、ビッグデータやオルタナティブデータの収集・整備が両輪となり、テクノロジーは著しい進化を遂げつつあります。
このような社会経済の変化とともに、私たちの日常生活や経済活動の基盤を提供する不動産の可能性や期待はますます大きくなっていると言えるでしょう。
不動産テック(prop tech)は、進化するテクノロジーを活用して、不動産を所有し利用する方法や、不動産に投資する方法をより効率的で効果的なものにしています。さらに、データセンターやドローン空路などの新しいアセットやインフラ、デジタル技術を利用したメタバースやデジタルツインなどの仮想空間もジャレフの研究対象と考えています。不動産ファインナンスという伝統を承継しながらも、新たな研究フロンティアを拡張するチャレンジを続けたいと考えています。
また、「サステナブル不動産(Towards Sustainable Real Estate)」は、ジャレフが全米不動産都市経済学会(AREUEA)と共催した第26回アジア不動産学会2022年東京国際大会のテーマでした。2050年の脱炭素社会の実現に向けて、日本全体の1/3の二酸化炭素を排出している不動産には課題が多くあります。不動産の居住者や利用者の健康やウェルビーイングを増進する役割も不動産は担う必要があるでしょう。このようないわゆるESG課題に取り組み解決していく過程において、不動産は環境や社会に関するインパクトを創出し、金銭的な付加価値をも同時に生み出す大きなポテンシャルを持っています。
四半世紀にわたるジャレフの伝統の基盤の上に、テクノロジーとサステナビリティという革新によって不動産の新たなイノベーションと価値を創造すること、これが「不動産3.0」というステージにおけるジャレフの目標と考えています。すなわち、諸先生方によって培われた業績を進化・発展させ、次世代に不動産ファイナンス研究の知見や知的財産を繋いでいくとともに、将来の豊かな日本を先導する若手研究者の育成が使命と考えております。
今後とも、既存の会員の皆様、そして新たな会員としてご参加いただく皆様より、積極的にジャレフの活動にご協力いただきたく存じます。よろしくお願い申し上げます。
2023年12月15日
JAREFE会長 石島博
日本不動産金融工学学会・JAREFE・会長(2019年4月より)。アジア不動産学会・Asian Real Estate Society・次期会長(2019年7月より)。日本金融・証券計量・工学学会・JAFEE・理事および代議員。Asia-Pacific Financial Markets誌(Springer)・Associate Editor. 中央大学大学院法務研究科・教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科・経営工学専攻・博士課程修了(1999年,博士(工学),指導教員:故・白川浩教授,古川浩一教授)。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC・総合政策学部・講師),早稲田大学日本橋キャンパス(ファイナンス研究センター・助教授),大阪大学金融・保険教育研究センター(CSFI・特任助教授),中央大学大学院国際会計研究科・准教授・教授・研究科長補佐・研究科長を経て,2018年4月より現職。コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所・CJEB・客員研究員(在外研究2013–2014,科研費による長期出張2018–2019)。
単著の著書『バリュエーション・マップ: 企業価値評価の科学と演習(東洋経済新報社)』,『ファイナンスの理論と応用1: 資産運用と価格評価の要素(日科技連出版社)』,『同2: 正規分布で解く資産の動的評価』,『同3: 資産価格モデルの展開』.その他学術論文を多数執筆,日本FP学会賞・初の最優秀論文賞 (2010年),日本金融・証券計量・工学学会JAFEE論文賞(応用部門)(2017年),日本FP学会賞・優秀論文賞(2017年)などを受賞,情報処理推進機構(IPA)・未踏クリエータ(2003年).