Greeting
JAREFE会長
石島博(いしじま ひろし)
日本不動産金融工学学会,通称JAREFE(ジャレフ)は,2000年11月6日の設立以来,不動産金融工学および不動産ファイナンスの発展に貢献をしてまいりました。おかげさまでこの度,JAREFEは設立20周年を迎えました。この機に学会ホームページをリニューアルするとともに,不動産ファイナンス研究に関する自由闊達な意見交換,情報交換,研究交流,および研究発表を行うプラットフォームとして,JAREFEのより一層の活性化を目指したいと考えております。これまでJAREFEをサポートしていただきました皆様方に衷心より感謝申し上げますとともに,今後ともJAREFEの活動に積極的にご参加,ご支援をいただければ幸甚に存じます。
さて,JAREFEが行っている研究分野は,不動産について,ファイナンス理論を背景とした計量的なアプローチで分析をする不動産ファイナンスとなります。具体的には,「住宅や商業用不動産の投資・売却や賃貸借における価格評価や意思決定を支援し,それらに要する資金調達の手段を提供する。不動産の売買や賃貸借の取引を行う市場の機能や効率性を,価格・取引高・需給などの推移を通じて分析し,健全な市場と優れた取引制度を設計する。さらに,不動産の投資・開発・売却,賃貸借,資金調達に関するキャッシュフロー・クレジット・イノベーションに着目した,証券化や不動産テックといった金融商品やサービスを提供するビジネスに資する」学問分野です。
そのような不動産ファイナンスの地平を拡張するチャレンジを,今後もJAREFEは先導いたします。第1のアプローチとして,不動産投資を金融資産への投資と同列で扱えるよう,ファイナンス理論を拡張します。その理論に基づいた統計・計量モデルの開発や,様々な観点からの実証分析も必須です。第2に,データ・ドリブンなアプローチがあります。不動産の分析に必要なデータは,価格・取引高・需給などの基本的なデータに加え,立地・面積・築年数・駅徒歩といった不動産の空間や時間軸に占める属性,不動産取引主体のクレジット,さらには不動産を利用する人々の心理や評価が反映されたテキスト,周辺エリアの衛星写真や対象物件の画像データなど,まさにビッグ/オルタナティブ・データを形成します。このような大規模・非構造化データより,スタイライズ・ファクトを発見するべく,深層学習等のAIの効果的な利活用が必須となります。
このように,現在から未来に向けた不動産ファイナンスの諸課題とアプローチを整理してみると,ファイナンス/経済理論を踏まえた実証アプローチと,データ・ドリブンなアプローチが上手く融合していくことが必須となります。このような研究アプローチは決して荒唐無稽な発想ではなく,欧米では先達があり,アナリティクスという研究分野として確立しています。「アナリティクス(analytics)とは,データをより良い意思決定に資する深い知見へと変換する,科学的な過程のこと(Hillier and Lieberman, 2013)」をいいます。Davenport (2006)が,Harvard Business Review誌でその概念を具体例とともに提示してから,オペレーションズ・リサーチの一分野として確立しています。
上記観点より,JAREFEが先導すべき,不動産ファイナンスの地平を拡張する一つの方向性は,「不動産アナリティクス」として特徴付けることができましょう。この不動産アナリティクスを産官学で共有することにより,単独では解決が難しい不動産ファイナンスの諸課題について議論するコミュニティとして,そして不動産に関連する幅広い産業を今後も持続的に成長させるためのエコシステムの一翼として,さらにJAREFEを活性化したい所存です。正会員・法人会員の皆様をはじめ,不動産ファイナンスのご関係者様におかれましては,今後ともJAREFEの活動に積極的にご参加,ご支援を賜りますよう,心よりお願い申し上げます。
2019年11月6日
JAREFE会長 石島博
なお,本挨拶は,石島博 (2019) “不動産アナリティクス” ジャレフ・ジャーナル, 11, pp 27-28を加筆・修正したものです。
日本不動産金融工学学会・JAREFE・会長(2019年4月より)。アジア不動産学会・Asian Real Estate Society・次期会長(2019年7月より)。日本金融・証券計量・工学学会・JAFEE・理事および代議員。Asia-Pacific Financial Markets誌(Springer)・Associate Editor. 中央大学大学院法務研究科・教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科・経営工学専攻・博士課程修了(1999年,博士(工学),指導教員:故・白川浩教授,古川浩一教授)。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC・総合政策学部・講師),早稲田大学日本橋キャンパス(ファイナンス研究センター・助教授),大阪大学金融・保険教育研究センター(CSFI・特任助教授),中央大学大学院国際会計研究科・准教授・教授・研究科長補佐・研究科長を経て,2018年4月より現職。コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所・CJEB・客員研究員(在外研究2013–2014,科研費による長期出張2018–2019)。
単著の著書『バリュエーション・マップ: 企業価値評価の科学と演習(東洋経済新報社)』,『ファイナンスの理論と応用1: 資産運用と価格評価の要素(日科技連出版社)』,『同2: 正規分布で解く資産の動的評価』,『同3: 資産価格モデルの展開』.その他学術論文を多数執筆,日本FP学会賞・初の最優秀論文賞 (2010年),日本金融・証券計量・工学学会JAFEE論文賞(応用部門)(2017年),日本FP学会賞・優秀論文賞(2017年)などを受賞,情報処理推進機構(IPA)・未踏クリエータ(2003年).